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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)3号 判決

控訴人(原告) 波多孝平

被控訴人(被告) 結城市長

原審 水戸地方昭和三一年(行)第九号(例集七巻一二号280参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和三〇年一一月三〇日別紙目録記載の不動産についてした、随意契約による売却処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、被控訴人において乙第一七号証を提出し、なお双方において次に記載の通りした外は、原判決の事実摘示の通りであるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

(一)、仮に昭和三〇年一一月二八日に公売らしいものがあつたとしても、右公売の前提である本件物件に対する差押にあつては、差押調査の作成がなかつたものであつて、従つて右差押は無効であり、またこれを前提とする右公売もまた無効である。

(二)、仮に右公売が有効であつたとしても、一度位の公売で一日おいて直ちに随意契約処分をするが如きは、法律上「公売に付するも買受人なき」状態とはいい得ない。社会的に見て相当の手段、すなわち少くとも二回以上尽すべきを尽して後になすべきもので、これが法の精神である。本件の如きにおいては何人も安んずることができない。

(被控訴人の主張)

本件物件の差押については差押調書は作成されている。従つてこの点に関する控訴人の主張事実はこれを否認する。

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求を失当と判断するものであり、その理由とするところも、控訴人の当審における新たな主張につき次に記載の通り附加する外は、原判決の理由の記載と同一であるからこれを引用する。

(一)、控訴人は本件差押については差押調書が作成されなかつたと主張するが、その然らざることは、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められ、従つて真正な公文書と推定すべき乙第一七号証によつてこれを認めるに足るのであるから、右不作成の事実を前提とする控訴人の主張は何等採用に値しない。

(二)、控訴人はまた一度位の公売で一日おいて直ちに随意契約処分をするが如きは、国税徴収法第二五条第二項にいう「公売に付するも買受人なき」物件についてしたものということはできない趣旨の主張をする。しかし本件物件は結城市内でも田圃を越えて行かねばならぬ場所にあり、建物も全部バラツク建で、工場を直した住宅には一〇余世帯が住んでいたがこれも大修理を要する状態にあり、右以外の建物は屋根が破れて空が見える位のところもあるような有様で、問題は土地ではあるが、結城市は地価の安いところであり、しかも何分公売の見積価格が一一〇万円という田舎では相当の大金であつたため、余程特殊な人以外にはその買受希望をする人もないようなものであつたこと、原審証人田中資八、添野豊太郎、吉田市太郎、石堀武三の各証言(田中資八及び添野豊太郎は各その第一回証言)を総合してこれを認めるに足るのであるから、被控訴人が唯一度の公売を実施し、その公売において買受希望者がなかつたことだけで、本件物件を以て、公売に付するも買受人なきものと認めたとしても、これには何等の違法もないものというべきであり、この点に関する控訴人の主張もまたこれを採用するの限りではない。

以上の通りであるから控訴人の本訴請求を排斥した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 薄根正男 奥野利一 山下朝一)

(別紙省略)

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